香典返しの辞退

香典には大切な方を亡くした遺族を励ます気持ちが込められており、香典返しの際にはその気持ちに対してお返しするという形で無事に法要を済ませることが出来た報告を兼ねて贈るものです。ですから、参列者の方が「遺族の方の金銭的な負担を少しでも軽減したい」「香典返しの準備にかかる遺族の方の負担をなくしたい」といったような気持ちが強ければ香典返しの受け取りを辞退することは可能です。ですが、香典返しには感謝の気持ちも込められていますので特別な理由がない限りは受け取った方が無難と言えます。理由があって辞退する場合には、失礼にならないよう明確かつ丁寧に伝えれば問題はありません。
香典返しが辞退されるケースとして多いのが、先に挙げた「遺族の方の金銭的な負担を少しでも軽減したい」「香典返しの準備にかかる遺族の方の負担をなくしたい」といったような理由です。一般的に「一家の大黒柱が亡くなった時には香典返しはなし」という暗黙のルールもありますが、その他の場合にも家族を亡くし大変な時に気を遣わせたくないといった気遣いや少しでもその分を葬儀の費用にあててほしいといった気遣いが香典返しを辞退する理由の多くを占めている理由のようです。その他に香典返しを受け取るとコンプライアンス上問題になる職業に就いているといったような場合もありますが、この場合には香典返しは辞退すると職場の規則で決められている場合があります。規則で決められているので香典返しは受け取ることが出来ないという旨の連絡があった場合には香典返しを贈ると返って迷惑になってしまうので、香典はご厚意として受け取りましょう。この様に客観的に明らかな理由がある一方、そうでない場合もあります。
例えば、香典の金額が少なく香典返しを受け取ると遺族にとって赤字になるからという理由で香典返しを辞退する場合が挙げられます。香典返しの品物は一般的に「半返し」とされていますし安価なお返しをするという選択も考えられますが、香典返しには送料も掛かりますので少額の香典に香典返しをすると遺族の方にとって赤字になるという事態は少なからずあり得ることなのです。こうした理由から、香典が五千円以下の場合には特に香典返しを辞退するケースが多いようです。また、会社から法人名義で香典を渡された場合の香典は経費として処理されている為、香典返しを送る必要はありません。しかし、会社関係の知り合いの方が個人的な意思でご自身で香典を出したことが察せられる場合には香典返しが必要になりますので注意が必要です。
多数の方が少額を持ち寄り一纏めにし香典を包んだ場合にも、香典返しを辞退するのが一般的となります。香典返しは、香典を包んでくれた人に各自個別に送るものであり、団体やその代表者に送るものではないからです。また、連名で香典を包む場合は、一人当たりの香典の金額が先述した金額が少額の場合に該当するとされる事もあり香典返しは不要だと考えられます。連名で香典を包んでもらった場合にも香典返しをしたい場合は、小分けにしやすい物や配りやすい物などにあたる、気を遣われない程度の菓子などを送り感謝の気持ちを伝えると良いでしょう。
葬儀自体にもに地域差があるように香典返しにも地域差があり地域によっては香典返しを行わない場合もあります。例えば北海道では、香典返しは即日返し・全員一律千円程度の品物を送る、というのが一般的のようです。自分の住んでいる地域での葬儀の習慣は業者や知識のある方に相談すれば分かりますが、難しいのが「香典返しをする地域の方が香典返しをしない地域の葬儀に参列した場合」などです。このような場合には、香典返しの習慣がある地域から来た方には香典返しを送り、香典返しをしない地域の方には香典返しを送らない」のが無難な対応となると思いますが、周りの方などに実際に相談すると安心です。香典返しを行わない地域であっても香典を受け取った四十九日明けには挨拶状やお礼状を送るのがマナーとされているので忘れないように注意しましょう。
大前提として香典返しには感謝の気持ちも込められていますので特別な理由がない限りは受け取った方が無難と言えます。それでも香典返しの辞退を申し出る場合にはマナーを押さえておかないと、遺族を気遣う気持ちで香典を辞退したのに意図せず失礼な対応になってしまう恐れがあります。それでは、実際にどのように香典返しの辞退をすれば良いかをお伝えしていきます。
近年の葬儀形態では、葬儀の当日に香典返しを行うケースが多い傾向になってきています。ですから、香典返しを辞退する旨を受付の方に予め口頭で伝えておく必要があります。ただしここで注意が必要なのが、受付で口頭にて伝えるだけでは受付係の方の処理が漏れてしまう可能性があるので香典の中袋にも香典返しを辞退する旨を記載しておくことをおすすめ致します。香典袋には中袋の表面に金額を、裏面に住所・氏名を記載します。その際に中袋の裏面に香典返しを辞退する旨を併せて明記するとよいです。書き方に特に決まりはありませんが、「誠に勝手ながら香典返しは遠慮させていただきます」や「お返しのご配慮は遠慮させていただきますようお願い申し上げます」といったような一言を添えましょう。また、中袋に直接書くのではなく、一筆箋を添えるという方法もあります。
香典が高額だと遺族側も香典返しをしなければという気持ちになってしまいますから香典返しを辞退する場合には、香典に入れる金額を抑え相場に適った金額か相場よりやや少なめの金額を包みましょう。ただし、香典の金額を抑えただけでは遺族へ香典辞退の意思は伝えられません。しっかりと口頭や中袋で辞退の旨を伝えておく必要がありますので注意しましょう。

最後に、香典返しを辞退された場合の施主の対応マナーについてですが、香典返しの辞退を受け実際に何もしないというのも感謝の気持ちを伝える機会がない上に、関係性が崩れてしまうのではないかと不安に思われる方もいらっしゃるかと思います。香典返しを辞退された場合に感謝を伝える具体的な方法として、施主が感謝を伝える手段として最も一般的とされているのが挨拶状・お礼状を四十九日後に送付するという方法になります。本来、香典返しは品物とともに御礼状や挨拶状を添えて送りますから、香典返しを辞退した参列者の方には品物は送らず、「返礼品不要とのお心遣いまことに有難く 心より感謝申し上げます」などの言葉を添え御礼状だけは送るようにすると良いでしょう。また、遺族としてはお返しをしたい思いが強い場合もあるかと思います。そのような時には別の機会に改めてお礼をするのがおすすめです。お中元やお歳暮を送ったり、食事に招待したり、何かの機会に菓子折りを持って行ったりと、感謝の気持ちを伝える方法は様々です。

薄墨で書く意味や理由

香典袋に表書きなどを書く場合、なぜわざわざ薄墨を使う必要があるのでしょうか?薄墨は使う機会が限られていますから自宅に薄墨がない場合には、改めて用意しなければならず、手間だと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、葬儀の香典袋を書くときに薄墨を使うべき意味や理由がありますので詳しくご紹介していきます。
薄墨を使用する理由にはいくつかの説がありますが、一般的に香典に使う墨を薄墨とする理由としては「故人を追悼する気持ちを表すため」とされています。古来はボールペンといったような類の物はなく毛筆に墨を浸し文字を書くのが一般的でした。薄墨は一般的な墨と比較すると水分が多めで薄いのが特徴ですから、その様子が故人を悼む涙で墨が薄くなったことを想起させる印象があるというような説があれば、故人のご不幸を聞きつけ急いで駆けつけた為に墨を十分にすっている間もなかったという意味も込め薄墨を使うという説もあります。いずれにせよ、故人を追悼する気持ちを表すために薄墨を使用することが由来している名残が一般的です。こうした習慣が始まった時期は確かな事は言えませんが少なくともペン類が一般的に使用されるようになる明治時代よりも前である江戸時代頃からあったといわれています。
一般的に香典には薄墨を使用することがマナーとされていますが、実は必ずしもそうとは限りません。地域によっては薄墨を使用せず普通の墨で香典を書く場合もあります。例えば、京都では薄墨は使用しません。しかし香典を普通の墨で書いてきた京都でも、薄墨を使う例が増えるといった変化が見られるようになってきていることから事前の確認は欠かせません。その他にも薄墨を使わない場所があるので、知らないことでマナー違反になり悪印象を与えてしまわないよう、事前に薄墨の使用可否を確認しておくと安心です。
香典を記入する際に薄墨を使用するのは、基本的にはお通夜と告別式の葬儀に限ります。なぜお通夜と告別式なのかというと突然の訃報を受け、急いで駆けつける必要がある葬儀である為です。一般的に香典に使う墨を薄墨とする理由としては故人を追悼する気持ちを表す為で急いで来たために墨が薄くなってしまったという意味を込めて薄墨を使用するという旨も心得ておきましょう。また、お通夜や告別式の際に濃い墨を使用してしまった場合には文字を書くことに時間をかけ、すぐに駆けつけてくれなかったという意味合いに捉われてしまうかもしれませんので注意が必要です。薄墨を使用するタイミングと理由を一緒に覚えておくと、マナー違反をしてしまうリスクを回避できますから、この機会にぜひ覚えておいてください。また、お通夜と告別式の他に初七日も薄墨を使用します。近年では初七日は葬儀と同時に行う場合が多いので薄墨の使用が一般的となっています。
反対に、四十九日や一周忌や三回忌などの法事は濃い墨を使用します。これには、事前に予定が分かるものに関して薄墨を使用する必要がない為です。すぐに駆けつけた意味合いを表現する必要がないからです。例えば四十九日や一周忌や三回忌といった事前に予定が決まっている行事に香典を持参する際は濃墨で書くと良いでしょう。この際もボールペンやサインペンで書くことは略式にあたりますので使わない方が無難ですから、濃墨で丁寧に書くことを心がけましょう。
薄墨の筆ペンがない場合はどのようにすれば良いのでしょうか。薄墨用の筆ペンが自宅などになく、どうしても用意する事が難しい場合には普通の墨の筆ペンを使用しても特に問題にはなりません。しかし、近年ではコンビニなどでも薄墨の筆ペンが販売されている場合も非常に多くなってきていますから、よほど急ぎの場合ではない限りは薄墨の筆ペンを用意するようにしましょう。薄墨で表書きなどを書く場合、普通の墨以上に水分が多めに含まれていますから、にじんで書きにくいという場合も多いです。墨がにじむ場合の対処法として、実際に記入する際に少し早めに筆を動かすという方法があります。丁寧に書こうとすると自然と筆を動かすのがゆっくりになるかと思いますが、ゆっくりと筆を動かして書こうとするとかえって墨がにじみやすくなってしまいます。また、使用するのが薄墨の筆ペンであれば、書く前にペンの穂先をティッシュなどで軽くインクをふき取るようにすると良いでしょう。にじみに関しては、毛筆よりも筆ペンの方が比較的扱いやすいので筆ペンの方がおすすめです。一度ご自身で試し書きをしてみて扱いやすいと感じた方を使用してみるとなお良いですね。
また、サインペンやボールペンなどはご家庭に常備されている場合が多い為、それらを使って書いても良いのではないかと考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし香典にサインペンやボールペンなどを使用するのは、作法上あまり良いとされることではありません。理由としては、香典の表書きを書く際にサインペンやボールペンなどを使うということは作法の上では略式とみなされる為です。作法に厳しい方や作法を重要視する方もいらっしゃいますから、お互い不快な思いをしない為にも香典を書く際にはサインペンやボールペンは極力使わない方が良いでしょう。ただし、サインペンやボールペンなどを使って書いて良い箇所が存在します。具体的に言うと中袋の部分で、中袋に記入する金額はご遺族側が香典の金額などを確認するための箇所でありますので、ご遺族側が確認しやすい様にわかりやすい字体や色の濃さを心掛けることが大切となってきます。
また、近年ではコンビニなどでも香典袋が販売されていることが当たり前となってきています。その多くの場合、あらかじめ濃い墨で書いたような見かけで表書きなどが印字されている物が一般的となっています。このような場合には、印字されている墨の濃さに合わせても合わせなくても問題はありません。